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天文学や宇宙物理学の話題をくわしく解説します。

【イラストでわかる】ロケットが飛ぶしくみ

ボイジャー一号の打ち上げの様子 Image credit: NASA/JPL-Caltech/KSC

宇宙ロケットは宇宙に物や人を運ぶためのものです。ロケットという名前を知っている人は多いと思いますが、ロケットがどのようなしくみで動くのかを知っている人は少ないと思います。この記事では、ロケットがどのように動くのかを分かりやすく解説します。

 

 

ロケットが飛ぶしくみ

地球から飛び出して宇宙へ行くにはどうすればよいでしょうか。答えは簡単で、ものすごい速さで飛び上がればよいのです。ものすごい速さとは、具体的には秒速7.9km以上の速度です。それではロケットはどのようにしてものすごい速さを獲得しているのでしょうか。

運動量保存則

宇宙ロケットの原理をくわしく知るためには、運動量保存則の理解が欠かせません。運動量保存則とは、外部から力が加わらないかぎり、物体系の運動量の和はどんなことがあっても保存するという法則です。

 

ここで、運動量や、物体系という聞きなれない言葉が出てきたので説明します。

運動量

運動量とは、ある物体の質量m1と速度v1をかけたもの、すなわちm1×v1です。これは、運動する物体がもつ運動の激しさや勢いを数値的にあらわします。といってもこれだけでは分かりにくいと思うので、具体的に考えてみましょう。

例えばボールで考えると、速度の速いボールは当たると痛いですよね?また、ボールが重ければ重いほど、当たった時の衝撃は増すと思います。このように、運動量は、体にあたったときの衝撃に相当します。

物体系

物体系とは、注目している物体のグループのことです。例えば、2つのボールAとBの運動を考えるときは、2つのボールが物体系となります。この2つのボールが互いに及ぼしあう力を内力といいます。また、この2つのボールが及ぼす力以外の力を外力といいます。

 

この物体系内では、ボールが互いにぶつかることがあります。2つのボール同士がぶつかると、それぞれのボールの速度は変化します。例えば、止まっていたボールが背後から追突されて動きだしたり、動いていたボールが正面のボールにぶつかって止まったりします。

 

以上のことを踏まえると、運動量保存則とは、考えている系内の物体の運動の勢い(運動量)の和は、系内の物体の衝突の前後で変わらない。ということがいえます。

 

これを式で表すと、物体Aの質量をm1、衝突前の速度をv1、衝突後の速度をu1、物体Bの質量をm2、衝突前の速度をv2、衝突後の速度をu2として、

m1×v1+m2×v2=m1×u1+m2×u2

となります。

 

 

ロケットにおける運動量保存則

それではロケットにおける運動量保存則をみていきましょう。ロケットは、燃料と酸素を積んでおり、内部で燃料を燃やしてガスを発生させます。このガスをロケット後方のノズルと呼ばれる部分から噴出することで、ノズルの方向と反対方向にロケットが飛んでいきます。

 

ここで、考える物体系は燃料と酸素を積んだロケットになります。燃料と酸素は、最終的にガスになるので、ここではロケットを、ロケット内部にガスが入っているとして考えてみましょう。

 

ロケット機体の質量を2kg、ガスの重さを8kgとしましょう。するとロケット全体の重さは10kgとなります。はじめ、ロケットは静止していたとします。このうち、ガス2kgを秒速10mでノズルから下方に放出したとします。するとロケットの速度はいくつになるでしょうか。ここでは、ロケットに外部から力が加わっていないとして考えてみましょう。

 

ロケットに外部から力が加わっていないため、運動量保存則を適用することができます。ここでは、ロケットがガスを放出する前と後で考えてみましょう。物体の一部分が切り離される場合も、2つの物体の衝突と同じように考えることができます。

 

まず、ガスを放出する前は、ガスを積んだロケットが一つあるだけです。これの質量が10kg、速度が秒速0mなので、ロケット全体の運動量は

10kg×0m/s

となります。

次にガスを放出した後は、8kgのロケットと2kgのガスに分かれます。ここで、ガスはノズルから下方に放出されるので、速度はマイナスとしましょう。すると、反対方向の上方がプラスの速度になります。(ちなみに速度のプラスマイナスは、方向の違いを表します)そしてロケットの速度はわからないので秒速?mとしましょう。ガスの速度は秒速-10mなので、系全体の運動量は、

8kg×?m/s-2kg×10m/s

となります。

最後に、ガス放出前とガス放出後の運動量が等しいので、

10kg×0m/s=8kg×?m/s-2kg×10m/s

8kg×?m/s=10kg×0m/s+2kg×10m/s

8kg×?m/s=2kg×10m/s

?m/s=2.5m/s

ここでついに、?m/s、つまり、ガス放出後のロケットの速度が2.5m/sであることが分かりました。実際には、ガス2kgが一度に出ていくわけではないですが、ガス2kgがすべて秒速10mで出ていけば、残ったロケットの速度は秒速2.5mとなっています。

 

このように、ロケットは、ガスが下方に放出される勢いの反動を用いて飛んでいます。このロケットを飛ばす力を推力といいます。この力は、ガスの勢いが大きくなればなるほど、速く飛ぶことができます。気になる方は、ガスの速度や出す量を変えて計算してみましょう。

 

ロケットの内部構造

ロケットの内部には、ガスを発生させるための燃料と酸素が入っています。酸素を積まなければならない理由は、宇宙には酸素がないためです。一方ジェット機は、ロケットと同じ原理で飛びますが、酸素を積んでいません。そのためジェット機で宇宙へ行くことはできません。ロケット内部で発生したガスは、ロケット下方のノズルへ到達し、放出されます。

 

ロケットの速さ

ここまでは、ロケットが飛ぶしくみを説明してきました。それではロケットは、どのくらいの速度で飛べば宇宙に行けるのでしょうか。

 

まず、人工衛星が地上すれすれを落ちずに地球の周りを回り続けるのに必要な速度は約7.9km/sです。人工衛星を打ち上げるロケットは、打ち上げられて衛星を放出する前までにこの速度に到達していなければなりません。この約7.9km/s一宇宙速度とよびます。

 

地球の重力を振り切り、太陽の周りを回る人工衛星となる場合は、約11.2km/sの速度が必要となります。これを第二宇宙速度と呼びます。

 

太陽の重力も振り切り、太陽系外に到達するためには、約16.7km/sの速度が必要となります。これを第三宇宙速度と呼びます。

 

太陽の周りを回る人工衛星や、太陽系外を目指す人工衛星は、天体の引力を利用したスウィングバイという航法で速度を増すことができます。

 

最後に

宇宙ロケットは、技術こそ複雑で高度ですが、その原理は極めて単純で、ロケットのノズルから噴出されるガスの勢いの反動を用いて飛んでいます。

 

いかがでしたか?この記事がお役に立てたら幸いです。